フリーのレコーディングソフト Audacity (オーダシティ)

220911 更新
Audacity(オーダシティ)はオープンソースの波形編集ソフト。個人的にはパソコンで録音するためのレコーダー、編集用、音響実験用として使用している。すでに15年以上、それなりの使用頻度で使い続けていて必要不可欠なソフトになっている。これだけ長く付き合っているオープンソースのソフトは珍しい。

AudacityはパソコンのハードディスクやSSDに録音していく。1990年代はハードディスクレコーディングはプロの道具であって、一般はテープやMDに録音という時代だった。それを思うと夢のような世界なのだが、現在では、パソコンさえあれば一番手軽に、お金をかけずに、高音質録音をする手段となってしまった。

マニュアルなしでもある程度のことなら、実現出来てしまうユーザビリティがまず素晴らしい。 それでいて、フリーとは思えないほど機能が充実していて、痒い所に手が届く仕様になっている。 そのため専門家でも業務で使っている人は多い。

Audacityは1999年にカーネギーメロン大学のDominic MazzoniおよびRoger Dannenbergにより開発され、その後オープンソースソフトとして公開。

ダウンロードは以下のサイトで行える。Windows、Mac、Linuxと各プラットフォームに対応している。 最近になってiOS版、デスクトップ版などの偽物があるようなので、ダウンロードは絶対にオフィシャルからすること。

Audacity オフィシャルサイト https://www.audacityteam.org/
最新版3.1.3(64bit) リリース 23. Dec 2021
下画像は Audacity 3.2.0 Alpha 1(プレリリース 30. August 2022)

詳細はオフィシャルページを見てもらうとして、個人的に気に入ったところをピックアップ。

軽快&安定動作

マシンパワーをそれほど必要とせず軽快に動作する。起動時間も短く、ウィンドウの大きさも最小限にすれば、他アプリを表示しながら作業が可能。また動作が安定していてトラブルが少ない。

多重録音が可能

たとえばギターを順番に録音して、それらをミックスすることが簡単にできる。表示も調整できて全体の見通しもよい。

波形を見ながら録音できる

録音しながら、リアルタイムで波形を確認できる。ほとんどオシレーター。これって個人的にAudacityを使っている大きな理由だったりする。他のソフトではレベルメーターぐらいしかなくて細かな確認がリアルタイムでできない。何がよいのかというと、入力音がクリップしていないかとか、演奏の安定度を、弾きながら確認できるので、NGかどうかの判断がすぐにできる。録音後にクリップに気づいて録り直しという事態は避けられる。下はクリップしたら赤くなるように設定して録音しているところ。


充実した波形編集

波形を目で確認しながら加工ができる。1サンプルずつ加工することも可能。例えばアナログレコードの録音で傷部分の修復とかも可能。

また周波数特性を視覚化したり細かな確認もできる。編集だけでなく、任意の周波数のサイン波や、ホワイトノイズなども作成できる。サンプリング周波数の自由度もあり、音楽以外の実験用途でも使い勝手が良い。


またサンプリング周波数は自由に設定が可能で、ビット深度も16bit、24bit、32bit floatなどに対応できる。

VSTeプラグインが使える

コンピューターミュージックの世界ではポピュラーなスタインバーグ社のVSTe規格のプラグインが使える。VSTeプラグインはユーザも作ることが出来て、数多くが無料で公開されている。高性能なプラグインも多く、それらをAudacityで利用できるメリットは大きい。

現在正式リリースの3.1.3はVST2までのサポートだが、Audacity3.2からはVST3もサポートされ、リアルタイム処理されるようになったため、DAWと同じようにON/OFFができるようになった。あとからパラメータを変更したいときには便利。


ショートカットキー

自由にショートカットを設定できるので、楽器を弾きながら操作するには便利。


オープンソースで積極的に開発がされている

これってかなり重要。頻繁にバージョンアップされ使い勝手が向上し、20年以上開発が継続されている。

各プラットフォームに対応

Windows、Mac、Linuxと各プラットフォームに対応している。 LinuxのUbuntuで利用できるのは素晴らしい。マルチプラットフォームGUIはwxWidgetsを使って実現している。


MP3 m4a(AAC)、OPUS、FLAC、Ogg Vorbisなどの音声ファイルが扱える

上記以外もかなり多くの種類の音声ファイルの入出力が可能。WAVに関しても、RAWデータが扱えたり、実験的なことをやるには重宝する。

AACやOPUSを扱うFFmpegに関しては、ライセンスの問題で、Audacityのインストール後に別途インストールする必要がある。Windowsの場合、下記ページから、ffmpeg-win-2.2.2.zipをダウンロードして、インストールすれば、Audacityは自動で認識するようになる。
https://lame.buanzo.org/#lamewindl




Nyquistプラグインで手軽にオリジナルプラグインを作ることができる

Nyquistプラグインは、インタプリタのLISP言語なので、テキストエディタなどで、さらっと書いて、それをPlug-Insフォルダに入れれば、すぐに使用することができ、しかも高速に実行できて実用的。簡単なプラグインであれば、あらかじめ用意された命令を並べるだけで作れてしまう。専門的な知識はあまり必要ない。

自作のEQは以下のようなソースで、きわめて簡単。
;nyquist plug-in
;version 1
;type process
;name "NAMAGI EQ"
;action "Performing NAMAGI EQ..."
;info " "

;control gainHi "GAIN HI" real "dB" 0.0 0 15.0
;control hzHi "FREQ HI" real "Hz" 13000.0 10000.0 20000.0 
;control widthHi "Q HI" real "Octaves" 1.8 0.1 3.0 

;control gainLo "GAIN LO" real "dB" -2.0 -12.0 0
;control hzLo "FREQ LO" real "Hz" 200.0 20.0 500.0 
;control widthLo "Q LO" real "Octaves" 1.8 0.1 3.0 

(eq-band 
(eq-band 
s 
hzLo gainLo widthLo)
hzHi gainHi widthHi)
Audacityを起動してEffectから上記を実行すると以下のGUIが表示される。スライドバーも利用できるようになる。




残念なところ1 標準でASIO対応じゃない

Windows版限定の話だが、ASIOに標準では対応していないこと。 Windows10以降、ますますマイクロソフトの音声関係はひどくなった。うん十年間に及ぶ音楽業界からの苦情もなんのその、さらに悪化させてみましたという勢いで、レイテンシーにバラツキが出るようになってしまった。遅延が全く再現性がないとなると多重録音は不可能。そこでマイクロソフトの音声関係をスルーするASIOを望むのだが、オープンソース故の問題なのだろうか、商用の技術を堂々と取り込むのが難しいようだ。自分でコンパイルさえできればASIO対応も可能。やり方はこちらのページにあります。個人的にはWindowsの悪化により、録音環境を普通にASIOが使えるCakewalkへ移してしまった。それでもAudacityは波形を自由に編集できるのでちょくちょく使っている。


残念なところ2 dB表示が・・・

波形をdB表示に切り替えると下のようになってしまう。ふつうは波形そのものはリニアのままにして、目盛りだけが対数表示になるのだが、Audacityはこんな感じで、目盛りは等間隔で、波形がそれに合わせて変形してしまう。これでは使いづらいよ。と思うのだが・・・ 自作コンプもそういうこともあって、リニアの数値で設定するようにしてしまった。


Ver3.3.3をいじっていたら、波形はリニア表示のままで、dBスケールできるようになっていた。


残念なところ3 個人情報の収集を始めた

2021年にMuse Groupに買収され、プライバシーポリシーが変更され、個人情報の収集を始めた。Audacity 3.0.3 以降がその対象となる。収集内容は、アプリの解析と改善目的にIPアドレスに基づくユーザーの居住国、OSとバージョン、CPU、致命的ではないエラーコードとメッセージ、クラッシュレポートなど。公式では、あくまでも改善のための情報で、個人情報を集める目的ではないとしている。下記に公式の見解がある。
https://www.audacityteam.org/about/desktop-privacy-notice/
Muse Groupは2021年に設立されていて、フリーのMuseScoreも傘下に入っている。このグループの目的がよくわからない。なんか不自然で気持ち悪い。今までの開発スタイルではだめだったの?と言いたい。このようなオープンソースのソフトはメインの開発者にゆだねられているので、彼らが反発すれば、OpenOfficeからLibreOfficeに分岐したように新たなAudacityが作られるかもしれない。


各部の詳細は下記目次からどうぞ。情報が古いですが、バージョン3.2のタイミングで徐々に更新していきます。
Audacity マニュアル 目次