2010/11/15

リバーブについて

リバーブの必要性
オンマイク録音では必須のリバーブ。オンマイクとは音源とマイクとの距離が近いこと。実際の距離はマイクの種類によっても微妙に違うようだが、SM58、SM57のようなダイナミックマイクの場合は15cm以下で使うのが普通で、この距離はすべてオンマイクという。オンマイクで録音すると素の音が録音できる反面、空気感のない不自然な音になる。ドライな音とも表現されている。この状態の音が不自然と感じるのは、通常の音というのは必ず直接音と間接音(反響音、残響音など)も一緒になって聴こえてくるからだ。部屋であれば、部屋の壁やら床やら天井やらに反射した音が同時に聴こえてくるもので、それが普段聞きなれている音となる。一方オンマイクでの録音は、その間接音がほとんど入っていないから、ちょっと違う印象を受けてしまう。

逆にオフマイク(音源とマイクを離す)で録音すれば、随分と自然な感じに録音できるが、実際普通の家で録音すると、マイナス要因の方が大きい。まずダイナミックマイクは低感度なので入力レベルが稼げずノイズが多くなる。SM58などではロールオフされているので、低音がなくなってスッカスカの音になってしまう。それから演奏以外の音がかなり入ってしまう。もしマイクの感度が高くオフマイクが可能だとしても、部屋の雰囲気がそのまま音になるから、通常の音響が全く考えられていない部屋の場合は、しょぼい音になるのがおち。ということで環境に恵まれない宅録ではオンマイクで録音するほうが何かと都合がよい。

リバーブは間接音である反響音、残響音を人工的に作り出すもの。オンマイクの不自然さをなくし、自然な雰囲気にすることができる。人工的に作り出すので、理想的な空間を用意することも出来る。まさに空間シミュレーション。下図はリバーブで作り出した音を色分けしたもの。大雑把に青が直接音で、赤が反響音、水色が残響音となる。

リバーブの歴史
初期のリバーブは物理的な装置(エコールーム、スプリング、プレート)を利用して、それっぽい残響を作り出してレコーディングしていたようだ。現在これらは完全に消えたわけでなく、ギターアンプでは、あえてスプリングを使うものがある。ただし、このようなケースは稀で、多くのリバーブはシミュレートされ、デジタルリバーブ内に取り込まれている。

現在主流のデジタルリバーブは、専用チップやパソコンを利用することで、かなり負荷の高い処理も可能になっている。このことは、よりリアリティのある空間シミュレーションが可能になっていることを意味するが、実際の現場では、リアリティだけを求めているわけでもないのが面白いところ。

デジタルリバーブの種類は大きく分けて2つのタイプが存在する。ひとつはデジタルリバーブが作られた当初から使われているディレイを高機能化したディレイタップのリバーブ。これは普通にデジタルリバーブと言われている。もうひとつはCPUの処理能力が向上したことで最近現実的に使えるようになったコンボリューション・リバーブ。

デジタルリバーブ(ディレイタップ)
現在でもデジタルリバーブが主流といえる。エコーとかディレイとか言われている装置の発展形といえる。無数の反響を作りだすことが可能で、パラメーター操作により目的とする空間の音を擬似的に作り出すことが出来る。たとえば反射音の時間で空間の広さを表現できるし、その反射音や残響音をEQで調整することで、部屋の壁の質感を表現することができる。こんな感じでパラメーターを細かくいじってリバーブ成分を作り出すので、実空間とは違った演出も可能であり、使い手のセンスが問われる。そこが面白いところでもある。

Kjaerhus Audio Classic Reverb

ディレイタップ方式の一般的なパラメータがあるフリーのVSTリバーブ。品質もそこそこで扱いやすい。オフィシャルページがなくなってしまったのが残念。

Classic Reverbのパラメータは以下の通り。

SIZE 0.625~640 m²
空間の広さを設定。

DAMPING MIN-MAX
残響の減衰調整。大きくすると早く減衰し、小さくするといつまでも響いている。

PREDELAY -150~0~150ms
反射音が出るまでの時間の設定。マイナスがあるところが面白いが、マイナスにすると直接音が遅れだすので注意が必要。そもそもマイナスで使うというのは特殊。マイナスにするとドライ音がその分遅れる。

HI DAMP MIN-MAX
リバーブの高音域の減衰のしかた MINにすると高域成分の減衰が遅くなり、シャリシャリとした音が残る。

LO CUT 20~1K Hz
何Hz以下のリバーブ音をカットするかを設定。空間の素材感や広さなどを調整。

EARLY REF -∞~0~6dB
初期反射音の音量。

MIX DIR. - 0 - EFF.
原音とエフェクト音の割合。

LEVEL
出力の音量調整。

プリセットは以下のようなもので、他に同じ名前でSendがある。上記パラメータの設定を変えるだけで幅広い環境をシミュレーションできる。
Grand Hall 残響がたっぷり
Small Hall 残響多め
Vocal Hall 1 残響多め
Vocal Hall 2 上よりも残響多め 高域成分多い
Vocal Ambient 控えめなリバーブで実用的
Empty Hall 残響に高域成分多し
Big’n Bright さらに残響に高域成分多し ローカットされている
Small Club 残響少なめ
Small Church プリセットによくある響きすぎる教会
Room 残響少なめ狭い感じ
Bathroom プリセットには必ずあるお風呂 初期反射なし
Shower Cabin 馴染みのないシャワーキャビン
Drums Room 狭い空間で残響は少ない HI DAMPはMIN
80’s Snare 初期反射をなくした残響のみ
Percussion 初期反射をなくした残響のみ
Phil’s Toms ローカットされた残響


コンボリューション・リバーブ Convolution Reverb
実空間等のIR(インパルス・レスポンス Impulse Response )データを使用することで、本当の空間に限りなく近い残響効果を作りだすことが出来るのが特長。コンボリューションとは畳み込みという演算手法で計算量が膨大になるので昔は困難だった。現在のパソコンでも負荷の大きな演算になるが、ようやく実用的に使える時代になった。このコンボリューション・リバーブが面白いのは、リアルな空間シミュレーションができるということだけでなく、様々な音響機器のシミュレーションを可能にしてしまっているところ。EQ、コンプ、ギターアンプだろうが、スピーカーだろうが、何でもありの世界。機器のIRデータさえできれば、コンボリューション・リバーブで成りすますことができてしまう・・・ちなみに上のClassic Reverbの完全なIRデータを作ることも簡単にできる。方法はそのうち別項で触れるとして、オリジナルとIR(コピー)をかけた波形の比較では、一方を位相反転させて合成すると完全に0になってしまう。つまり1ビットも1サンプルもズレないで同一の結果を出せるということ。

数年前からネット上に様々な高級機材のIRデータがアップされているようだが、そんなデータが、ある日突然削除されているのを見ると、やはり権利的に問題ありのようだ。見方を変えればコンボリューション・リバーブでシミュレートした音の質がかなり高いとも言える。高価な機材の音がかなり忠実に出てしまうということだろう。こんな反則的なコンボリューション・リバーブが現在はフリーで使えたりする。下のSIRなんかは有名なVSTプラグインのひとつ。

SIR v1.011 (Convolution Reverb) http://www.knufinke.de/sir/index.php
フリーのVSTコンボリューション・リバーブ。いくつかフリーでダウンロードできたIRデータを試したが、皮肉なことに、実空間のIRデータよりも、ディレイタップで作られた人工リバーブのIRデータの方が気に入ってしまった。まだあまり試してはいないので、これから収集しようと思う。そのうち消されそうなIRデータも、まだ転がってそうだ。

下はSIRに付属しているsir_IR_theaterというIRデータをAudacityで表示させてみた。実際にはwavファイルで出来ている。16ビットのサンプリング周波数44100Hzステレオで40,456samplesのデータだった。時間は1秒ないぐらいだが、畳み込みは、1サンプル計算するのに、そのサンプル分にそれぞれ掛けて足して割るのだから、さまじい計算量である。
SIRは音の遅れ(レイテンシ)が生じる。44.1kHzでは約203msec (8960sample) 遅れる。個人的には修正するので問題ないけど、リアルタイムで処理する場合は都合が悪い。遅れないコンボリューション・リバーブならFreeverb3というものがよいみたい。または自作もありかも。内容的にはFIRのデジタルフィルタだから難しい話ではない。むしろIRデータの自作のほうが面白いかも。リアルタイムではとてもできないような複雑な反射の計算を複数作って、最後に合成してIRデータとして完成させるとか。そのうち実験してみよう。

最後にサンプルでも。思いつきで適当に録音したのでプレイはひどいです。ギターアルペジオをオンマイクで収録。

リバーブなしのドライな音。


Classic Reverb プリセットにある Small Hallをそのままかけてます。ちょっとかけすぎだけど分かりやすいと思う。


SIR オフィシャルで手に入るIRデータ「Theater」を使ってみた。これもかけすぎだけど、違いは分かりやすいと思う。空間にリアリティがあります。


アップして確認したら気づいたけど、MP3に圧縮するとリバーブの音質差が縮まるようだ。無圧縮だと差が明らかなのだけどね。
修正しました。MP3の圧縮率を変えて192kbpsにしてみた。少しは違いが分かりやすくなった。
その後、高性能でオープンなフォーマットのoggに変更。

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