ダイナミックマイク SHURE (シュアー) SM57

定価は14,910円(税込)。 安価なサウンドハウスでの実売価格は6,450円(税込)(2011年)。

楽器用汎用マイクとしての定番。SM57として発売されたのは1965年なので、すでに46年間販売されていることになる。姉妹機種のSM58と並んで超ロングセラーだ。しかも日進月歩のエレクトロニクス分野で、このロングセラーは奇跡に近いと思う。

ここでは構造などハードを中心にレビューをしてみようと思う。

なぜ、そんなに受けいられているのか?

早い時期に定番の地位を確立してしまったことが大きいと思う。当時PAなどで求められていたハウリングしにくいとか、中域重視で音が前に出るなどの要求を満たしていた数少ないマイクがSM58、57。独特な音質ながらも現場で使いやすいマイクとして広まってしまったようだ。さらにミキサーなどの機材も、SM58、57でチューニングされたりしているので、後押ししているような格好になっている。

他には耐久性の高さや、タッチノイズの少なさなど、当時としては基本的な使い勝手が良かったことも大きかったと思う。タッチノイズに関しては現在でもかなり優秀な方だと思う。

現在、特性だけ見れば、SM58、57よりも高性能なマイクはいくらでもあるし、SHUREですら周波数特性を向上させた後継機種を出しても置き換わることなく、SM58、57は第一線で使われ続けている。結局コンデンサーとは違うダイナミックマイクの基準ということなのだろう。

入門者から見ると、高性能なマイクよりも、どこにでもあるSM58、57を使いこなせた方が何かと便利という現実がある。もはや性能で選んでいるわけではないので、この定番を崩すには製造終了でもしない限り不可能に思える。


SHURE SM57(Studio Microphone)主なスペック

形式 ムービングコイル型ダイナミックマイクロフォン
指向性 単一指向性 カーディオイド
周波数特性 40-15000Hz
感度 -56.0dBV/Pa (1.6mV) (1Pa = 94dB SPL) new:-54.5dBV/Pa(1.9mV)
出力インピーダンス定格インピーダンス 150Ω(new:310Ω)
極性 1番ピンGND 2番ピンHOT 3番ピンCOLD
出力コネクタ XLR3ピン(male)
ケース ダークグレーエナメル加工ダイカストスチールボディ、ポリカーボネイトグリル、ステンレススチールスクリーン
寸法 直径32mm 全長157mm
重量 284g
梱包内容:マイクホルダー、変換ネジ、ポーチ、ケーブルを束ねるためのマジックテープ、SHUREステッカー、説明書など
メキシコ製

付属している説明書のスペックだが、newと書いてあるのは、shureのホームページからの情報になる。 理由はわからないがスペックが違う。感度の違いは測定方法が変わったのか、地味なマイナーチェンジか? インピーダンスは明らかに実効値が310Ωということだろう。

主な用途

スタジオやPAでは、主に音圧の高いドラムのスネア、打楽器、ギターアンプなどに利用されている。たまにステージでボーカルに使われたりもする。

スタジオでは繊細な音はコンデンサーに任せて、音圧の高い力強い音はダイナミックで録音するなど、使い分けていることが多い。SM57はダイナミックマイクらしい中域を主張した音として重宝されているようだ。

音楽以外でもスピーチ用として昔から使われている。米大統領の演説には決まってSM57。テレビによく映っている。

音の印象

SM57は中域重視の塊のような音。コンデンサーマイクよりも重い振動版なので解像度が低くなり、ピークも圧縮される傾向にある。
アコースティックギターの録音用に購入したが、コードをかき鳴らすようにガンガン弾くなら、いいかもという感じ。アルペジオのような繊細な弾き方には空気感が不足してしまっている。
しかしボーカルには意外と向いていると思えた。SM58はウインドスクリーンの影響から音の輪郭がボケやすく、ロールオフの設定から低域も膨らみやすいが、SM57はそういうことがなく、かなりソリッドな印象。ただSM58よりも硬い音という印象はある。

下の周波数特性を見ても10kHz以上の高域は弱め。周波数特性だけみると中高域が膨れたような曲線になっているけど、マイクと音源の位置関係で大きく変わってくる。

SHUREのホームページにデモサウンドが結構たくさんあるので聴いてみるとよいと思う。
http://www.shure.co.jp/ja/products/microphones/sm57

下の動画は、コンデンサーマイクの比較だが、最後にSM57も登場している。意外と健闘しているという印象。なめらかさも繊細さもないが、その代わり前に出やすい音なのが分かる。


単一指向性 Cardioid

単一指向性とはマイク正面方向からの音に敏感で他の方向からの音はあまり入らないようになっている。下の写真のマークはハート型ということらしいが、おしりマークにしか見えない。このマークは方向に対する感度を表していて意味のあるもの。くぼみ部分がマイク中心部で、そこから離れている部分ほど感度が高い。正面方向は一番膨らんだところで、後ろは理論上0ということになる。指向性は下図のように周波数によって異なる。

上の写真にある「LOZ」とはローインピーダンスを意味する。

単一指向性の構造は、ダイアフラムの両面から同時に入ってきた音は打ち消されることを利用して、ハード的な細工で指向性を作り出している。SHUREのホームページを見ると距離差は約8.5mmらしい。グリルの正面とスリットから入った音はダイアフラム表面で捉えて、サイドのパンチングメタルのところから入った音はダイアフラム裏面で捉える構造になっている。
下の図のように正面の近い音源からはダイアフラムに音が届く時間も音圧も違うために打ち消されることはない。また横からの遠い音源の場合は、ダイアフラムの両面に同時に同じ音圧の音が届くので打ち消されてしまう。単一指向性は、わりとゆるい指向性で、正面から90度ぐらいまでの音が入る。ただ、真正面の音は周波数的にも一番バランスよい音になるので、録りたい音にまっすぐ向けるのが基本。後ろの音は完全に入らないかと言ったら、実際にはかなり小さい音で入ってしまう。完全に打ち消すことは難しい。それに室内であれば、反射音も大きいので、そういう音があちこちの角度から入ってくるのだから理屈どおりにはいかない。

ちなみにCardioidマークの描き方は極方程式の r=a(1+cosθ) で表せる。なかなか魅力的な図形だ。Maximaで描いてみた。
plot2d([1+cos(ph)], [ph,0,2*%pi], [y,-2.5,2.5],
[plot_format, gnuplot],
[gnuplot_preamble, "set polar; set zeroaxis;"]);

オンマイク、オフマイク

ダイナミックマイクは一般的には音源から30cm以内のオンマイクで使う。これ以上離して使うことをオフマイクという。ダイナミックマイクは感度が低いことと、構造的に音圧に耐えられるため、そういう結果になっているのだが、PAの世界では他の音を入れたくない場合が多いので、オンマイクは都合がよい。

近接効果 ロールオフ

マイクに指向性を持たせることで近接効果が生じてしまう。近接効果とは、マイクと音源の距離が近づくほど低域のレベルが大きくなってしまうこと。これは主にダイアフラムの両面にかかる音圧差が大きくなるからだと思われる。 そこでSM57では、不自然な音にならないように、ロールオフといって低域をカットしてある。ロールオフのしくみは謎なのだが、ユニットそのものに、そういう特性を持たせている可能性が高いかな? 他にはトランスを使うか、内部に回路を設ける方法になるが、その可能性は低そうだ。ロールオフされていても、そのカットオフ周波数より上に近接効果が出るので、マイクと音源の距離で大きく音が変化することになる。マイクだけでは調整しきれない場合はマイクプリアンプ以降でイコライジングするなりして補正するしかない。
下はbeta57Aの近接効果の周波数特性の変化を示したもの。SM57も似たような傾向だと思われる。音源が近いと200Hzを中心に盛り上がるのが確認できる。

近接効果について、こちらのページに少し書いてみた。

感度

-56.0dBV/Pa(1.6mV) (1Pa = 94dB SPL = 1N/m)
ダイナミックマイクは結構低め。今まで使っていたWM61Aは、エレクトレット コンデンサマイクなので、感度はわりと高く、時計の秒針の音などの小さい音も入ってしまっていた。それに比較してSM57は、単一指向性のため正面の音以外ほとんど集音しない。自宅で使うには使いやすい。かなりオンマイクで使えるので、さらに目的以外の音が入らない方向になる。コンデンサは音圧に弱いので、ある程度離して使うことになり、結果的に雑音も入ってしまう。WM61Aの場合、無指向性ということもあり、さらに悪い方向になる。環境に恵まれない場合はダイナミックが使いやすいと思えた。ただ低感度なのでマイクプリでかなり増幅する必要がある。音源の音量が小さい場合はマイクプリのノイズが目立つことになる。

マイクの感度の基準は、1paの音量の1kHzのサイン波を集音したとき、1V出力された場合を0dBVと定めている。1paは94dB SPLなので、かなりの音量。グランドピアノをガンガン弾いているぐらいの音量と考えていい。そのときにSM57は1.6mVの出力が得られる。これを元に計算すると
20 log10(1.6/1000) = -55.9176
となり、スペックと同等の値が得られる。ちなみにコンデンサーマイクはこの10倍ぐらいの感度を持っている。
この微弱な電圧をラインレベルまで上げる必要がある。ラインレベルの基準値は米式では+4dBu(0VU時)。電圧にすると1.23V程度となる。増幅を計算すると1.23/0.0016 = 769倍となる。ただこれは音量が1Paの場合であって、小さい音を扱う場合は、もっと増幅する必要がある。ということでマイクプリアンプは1000倍(60dB)ぐらいは増幅できるように作られている。

インピーダンス

ダイナミックマイクインピーダンスは150から600Ωの範囲で作られていて、その違いは感度と音質の差。SM57は150Ω(実効値310Ω)のローインピーダンスマイクで低感度で高音質。600Ωのハイインピーダンスマイクは一般向けのもので、感度は高いが音質が犠牲になっている。カラオケ用や安価に販売されているものは600Ωのマイク。

ダイナミックマイクの構造 ムービングコイル

ダイナミックマイクはダイアフラム(振動板)で音を受けて電気信号に変換する。音のキャラクターは、ほとんどこのダイアフラムまわりで決まってしまうので重要な部分。ダイナミックマイクは他のマイクに比べ丈夫であるのも、この部分が壊れにくいことが大きい。湿度や温度の環境に強いのもダイアフラムの素材やダイナミックマイクの構造が貢献している。ダイアフラムの材は内部損失が適度にある必要がある。特許を調べていくと一般的には薄いポリエステル等のフィルムで作られているようだ。ほとんどヘッドフォンと同じ構造で材料も似通っている。

ボイスコイルの内側にポールピースがあり、外側にはヨークがあり、それぞれN極S極の磁石になっている。ボイスコイルが前後に動くことでボイスコイルに信号が作られる。小中学校で習う電磁石の原理と同じで原始的な構造ともいえる。現在のSM57に使われている磁石は、おそらくフェライト磁石だと思うが、確かな情報がない・・・。

作りがかなり似ているインナーフォンを分解してみた。マイクもほとんど同じ構造のはずだ。ボイスコイルはダイアフラムに接着されていて、ダイアフラムを重くしている。あまり重くなると高域特性が悪くなるという問題が起きる。この部分の設計がダイナミックマイク開発の心臓部と言えるかも。それにしてもコイルをキレイに作って、フィルムに接着する技術はすごいと思う。薄くて弱弱しいダイアフラムも何十年も使える耐久性を持っている。

構造的にインナーフォンをマイクとしても利用可能なので試してみた。感度がやたら悪かったが、音質は意外とまともだった。マイクとしても十分機能することが分かった。

ダイアフラムの位置

マイクとの距離を測る場合、通常はマイク先端と音源の距離だと思うが、実際はダイアフラムと音源との距離が問題になるわけで、ダイアフラムの位置がどこなのか知っていたほうがよいと思う。SM57の場合は、先端から25mmぐらいのところにダイアフラムがある。



ポリカーボネイト製グリル

カプセルを保護するグリルはポリカーボネイト製。プラスチックとしては丈夫であるが、金属ほどではないので、ドラムにセッティングしてスティックでたたかれたり、落としたりすると割れる。

グリルはくるくる回ってしまう。これはちょっと・・と思う。下の取り外し図を見ると、グリルを取るとダイアフラムがむき出しになっているようだ。少しでも干渉すればダイアフラムが破損してしまう。クリアランスは十分あると思われるが、なんか危うい設計。

グリルの中には円柱状の厚いウレタンスポンジが入っている。サイドスリットからスポンジを確認することができる。爪楊枝か何かで押してみるとスポンジだということがよく分かる。このスポンジは主に、風などのボーボーとしたノイズが入らないための対策だと思われる。 公式ではリゾネーター/グリルアセンブリーというらしい。リゾネーターということは共鳴器という意味。ノイズ対策以外にも音響的な調整をこれでしているようだ。SM58で実験すると確かに中音域高音域の表情は変化する。

分解するにはネームプレート(シール)を剥がす必要がある。表にはステンレススクリーンがあり保護している。Shure USを調べたらグリルをオプションとして販売していて交換方法もあった。


バランス接続

SM57のマイクの端子は、HOT、COLD の2芯とシールド(GND)のバランス接続構成。
1 GND
2 HOT +
3 COLD 逆位相


バランス接続はノイズ対策のための技術。ケーブルは3端子あるXLRを使用する。マイクは微弱な信号を扱い、長いケーブルを使うことも多い。そのためノイズがケーブルに入ってしまうことは避けられない。そこで入ってきたノイズを、ミキサー等でHOTと反転したCOLDをミックスすることでノイズを消してしまう。さらに信号を2倍(+6dB)にする仕組み。

アンバランス(TSフォン端子)での接続はしないほうがよい
民生機器の多くは接点が2点しかないモノラルのTSフォン端子しか用意されていなかったりする。マイク側はXLRで、機器側がフォンプラグになっているケーブルを利用することになるが、TSフォンで接続すると上記のバランス接続ができないため音量が1/2(-6dB)になってしまう。ゲイン不足になりかねないし、環境が悪かったり、ケーブルが長いとノイズの影響も受けてしまう。

下はXLRコネクタのマイクケーブルを接続したところ。

耐久性もあり、不用意に抜けるようなこともない。

トランス構造

マイク内部にはトランスが入っている。一般的にトランスの目的はインピーダンス・マッチングか、出力を高めるためにあるが、SM57の場合、ファンタム電源からマイクを保護する役目も果たしている。ファンタム電源は48VをHOT(2)とCOLD(3)にかけるが、SM57はアースから浮いている状態なので、うかつにファンタムをONしてもマイクが壊れることない。

トランスはボディの軸部分に樹脂で固定されている。樹脂はホットメルト接着剤のような熱可塑性だろうから、100度程度で溶けると思われる。取り外すにはそれなりの温度をかけてやれば可能かもしれない。

ダイカストスチールボディ

マニュアルにはこのように書かれているが、ダイカストという時点で非鉄だと思うのだが・・・少なくとも磁石にはくっつかない。おそらくZn-Al-Cu系亜鉛合金だと思われる。JISでいうZDC2辺りかな。耐食性、強度もあり、寸法精度も高く、大量生産に向いている。そのかわり軽くはない。マイクに軽さはそれほど求められていないので問題なし。むしろある程度の重さがあったほうが音にとっては何かと有利に思える。

ダークグレーエナメル塗装 つや消し仕上げ

エナメル塗装とはアバウトな表現。しかもつや消し仕上げって、すごく矛盾している表記に思えてしまう。エナメルは、つやあり塗装の総称だと思っているのだが、違うのかな? とりあえず塗装で絶縁されている。塗膜も丈夫で重厚な印象がある


エアー式ショック・マウント・システムがハンドリング・ノイズをシャットアウト

オフィシャルHPに書かれているが、構造的に未確認。とても分解はできない・・・。確かに手でマイクを触ったときにハンドリングノイズは少ないと思う。ジャンク品でも入手してバラバラにしたい・・・。ちなみに先端のカプセル部を押すと少し沈み、クッションがあることが分かる。


ポーチ

出来は結構よいと思う。それなりにしっかりしていて、マイクをガードしてくれそう。質感も使い勝手も悪くない。一昔前のしっかりしたポーチという印象。

マイクホルダー

ねじ規格については別項に書いたので、そちらを参照してもらうとして、ホルダーそのものは硬めのプラスチック製(たぶんABSかな?)で耐久性も高く、使い勝手も良好。完成度の高いホルダーだと思う。

マイクをセットすると下のようにお尻の一部しかホールドしない。ガンガン使っていると、ホルダーが変形して段々と深くセットできるようになる。

パッケージ

2009年から、この黒っぽいパッケージになったようだ。これより前の箱は白地にSM57の写真があるもの。

SM58についてはこちらのページ