ダイレクトボックス自作(アクティブ)

以前作ったトランスだけのダイレクトボックスは、出力の小さいアコースティックギターにはパワー不足となってしまったため、ギター用のダイレクトボックスを作ることにした。 仕様的には数倍の増幅率があるダイレクトボックスを作ってみようと思う。 今回の製作コンセプトは、手持ちの材料だけで作り、1日以内で完成すること。つまり1円もかけない。


使用ギター

アコースティックギターには、FishmanのNEO-D Humbucking を装着している。またミニギターには先日NEO-D Single Coilを無理やりつけたところ。

Fishmanのこのシリーズのピックアップは、音はナチュラルでアコースティックギターらしいのだが、どうにも出力が低め。テスタで出力電圧を測ると、コードを弾いても1mAあるかないかという感じ。エレキなら10mA程度、ベースなら20mAぐらい出るので、10倍近く増幅したいところ。シングルピックアップの方はさらに出力は低く、手持ちの機材では測定不可能というレベル。


回路設計

なるべく少ない部品点数で作りたいので、前回作ったトランスを流用し、前段にFETを利用した増幅回路をつけようと思う。トランジスタではなくFETにしたのは、入力インピーダンスを高くできるから。ギターのようにハイインピーダンスで小さい信号を受けるにはFETが都合がよい。 手持ちのFETは東芝2SK30Aしかないので、これを利用する。ちょっと考えたのが以下のゼロバイアスのソース接地増幅回路。 電源は9V乾電池。

製作時はOUTPUTにトランス(SANSUI ST-75)が追加される。 FETのデータシートを見るとドレイン電流はIDSSまでしか書かれていないが、実際にはもう少し伸びる。入力信号が小さければ、0Vを超えてもまだ使える。この特性を利用してバイアス回路を不要にしている。

LTspiceでシミュレーションすると、9Vで6倍程度の増幅率となる。理想からすると、やや不足気味だが許容範囲だろう。7Vでは4倍程度となる。5.5Vになると1倍で増幅作用はなくなる。実際使ってみて増幅率がもっと欲しくなれば、その時点で改造すればいい。

使うアンペアは手持ちのFET IDSS=2mA(実測値)から2mA程度だと思われる。ただ音が出ていない時も常時使われる。

電源スイッチはON/OFFスイッチだと、切り忘れそうだから、 プラグの抜き差しで電源が自動で入るようにした。 ステレオジャックを使って、電池のマイナスをリングにつなぎ、プラグが差されたときGNDと接続する仕組み。

省電力&電圧下がっても結構使えるので乾電池も長持ちしそうだ。増幅度が何倍までOKとするかで駆動時間は違ってくるが、1倍の5.5Vまでとするとかなり使える。 ちなみにパナソニックが公式で出している6LR61Y(アルカリ9V)放電実験のデータから推測すると、2mAなら、連続7200時間以上、日数にすると300日以上持つと思われる。

入力インピーダンスは手持ちの抵抗器の関係から1Mオームにした。出力インピーダンスは2.2kオームで、さらにトランスで下げられ、おそらく130オームぐらいになっているはず。これならマイク入力に接続しても不満はないと思われる。


製作

まず回路はブレッドボード上で確認をした。乾電池前提で作っているが、試しに手持ちのACアダプタも使ってみた。するとハムノイズやら電源系のノイズがひどい。パスコンを入れても完全には消えないね。 ブレッドボード上ではジーというノイズも結構入ってしまうが、大抵ちゃんと組めば消える。 今回も基板上に組んだら、見事に消えた。 部品点数も少ないので、1Hほどで完成。

問題はケース。手頃な箱がないので、アルミ板を切って作ることにした。手作業なので、簡単な構造の箱を作るのも一苦労。精度もかなり怪しい。それでも見た目にはそれなりにまとまった。ケース製作作業に数時間かかってしまった。

中身はこんな感じ。無理のない範囲で、なるべくコンパクトにしてみた。 サイズは110x70x25mm。 コンデンサだけは、音質調整のため抜き差しで交換可能にした。とりあえず大きめの47uFにしているが、ギターの場合は、もう少し小さくてもいいかもしれない。

足は適当なゴムをねじで固定して、簡単にはがれないようにしてみた。ちゃんとした足パーツがあったら良かったのだが、あるものを使うが今回のコンセプトなので。



テスト

新品の9V乾電池がなく、電圧は7.5Vしかなかったが、それなりに増幅できている。おそらく構想に近い値は出ているのではないかな?  電流を測ったら2.07mAでFETのIDSSそのもの。音を出しても全く変化なし。プラグを差したら常時この電流が流れる。 音も変な癖はないように思われる。トランスだけのときよりも、明らかに高域はちゃんと出ているが、音の傾向はかなり近いように思う。やはりトランスの影響は大きいのかもしれない。

サンプル(アコースティックギター)

久々に弾いたら、全然弾けなくなっていた・・・ まぁ音のサンプルなので。
ジーというノイズはそれなりにあるが、音を出してしまえば気にならないレベル。ただFishmanのシングルは結構盛大にノイズが発生する。これはギターを弦アースにすることで、手が弦に触れていればノイズが消えるという方法で対処。それでも明らかにあるし、ギターの向きでノイズが大小する。シングルピックアップの宿命だね。

サンプル(エレクトリックベース)

ベースの音。しまってあったベースをDIを試すために超久々に引っ張り出してきた。YMOの東風イントロを耳コピして10分ぐらい練習。さて、音はパッシブに比べ、やはり高域がよく出ているが、音の傾向は同じという感じ。弦がフレットに当たるバズ音が結構目立つ。

まとめ

とりあえず使えそう。 ほぼ予定通りの作業時間、想像通りの出来になった。理論と実際が一致していることは重要なこと。 「よくわからないけど、うまく行った」とか気持ち悪くて仕方ない。 もっとダメなのは、「正しいはずなのに、全然うまく行かない」というもの。こういうのは大抵勉強不足が原因。
今回FET1個だけのシンプルすぎる回路なので、設計的には物足りない。今後時間を作って、凝ったものも作ってみたい。


ノイズ対策 181027

先週作ったDIをベースで試したらノイズがひどかったという話。アコギのFishmanピックアップは元々対策されているようで、大きなノイズは入らないが、ベースはそれに比較するとひどかった。 上のベースサンプルは、その状態で録音したものだが、結構ノイズが乗っている。まぁアンサンブルにしてしまえば、気にするほどでもないが、消せるなら消したい。

持っているベースはヤマハエントリーモデルのRBX-270で、ノイズ対策はされてないに等しい。 以前のトランスだけのDIだと高域特性が悪かったので、ノイズもさほど気にならなかったのだが、このDIをつなぐと高域まで伸びるようになり、同時にノイズも鮮明になってしまった。

意外な対策。 部屋には昔ながらのTV用のアンテナ端子があったので、そのGNDをアースとしてつないでみた。DIのケースをアース線でつないだだけなのだが、見事にノイズが消えた。

下サンプルはノイズだけの録音で、かなりレベルを上げてノイズがよく聞こえるようにしたもの。アースをつなぐ前とつないだ後の音。ジーという音が消えてるのが分かる。よくよく聞くと多少はあるのだが、録音しても気になるレベルではない。これでベースでも問題ない実用的なDIになった。

ベースの音を録音してみた。録音したまんまで、フェードインアウトは一切なし。 音が出る前後にノイズはほとんど感じられないと思う。 先週のベースサンプルと比較してもノイズレベルが明らかに低い。



つづき
ダイレクトボックス自作(アクティブBASS専用)