2018/01/27

トランジスタ増幅回路2
LTspice エミッタ接地

なんと1年半振りに続きを書く。前回の記事はこちら。 当初は、マイクプリアンプの自作を考えていたが、忙しくなったことと、新しい機材を導入したことで、必要性がなくなり、頓挫してしまった。 今回は、マイクプリアンプではなく、アコギ用(マグネットタイプ)のダイレクトボックスを目指すかたちで、基本的な増幅回路を勉強してみようかと思う。


シミュレーションソフト LTspice

オシロスコープを持っていないので、実際の回路のチェックは難しい。そこでLTspiceというソフトでシミュレーションすることにした。これがあれば、オシロスコープ以上のことが設計段階でいろいろ出来る。無料かつ高性能なので愛用者も多い。実は10年ぐらい前にも使っているのだが、基本的な電気回路の知識がないと歯が立たないので、ちゃんと使いこなせないままだった。今回は増幅回路に必要なチェックに使おうと思う。やりたいことのハードルは高くないので、なんとかなるだろう。



まずはトランジスタ1石の増幅回路から

目指すのはアコギ用ダイレクトボックスなので、ある程度最終形をイメージして大きく外れない範囲で実験して行くことにする。

まず電源は9V乾電池を使うということと、入力はハイインピーダンスで、かつ電圧レベルが低く、実測1mA程度しかないということ。これを増幅ナシで卓に送るというのはちょっと卓がかわいそう。そこで数倍から10倍ぐらいは増幅しておきたい。さらにダイレクトボックスなので、バランスで出力する必要がある。

いきなり、これらをすべて満たすダイレクトボックスとなると、やや複雑になるので、まず下図のトランジスタ1石のエミッタ接地の増幅回路を試す。増幅率約5倍となっている。 電源は9Vにしているが、実際9V電池はすぐへたって8V程度になってしまう。そこで6~9V程度で正常動作するようにした。

トランジスタは手持ちの東芝の2SC1815をシミュレーションでも使用。 カップリングコンデンサは直流成分カットのため入力、出力両方にある。 Input下にある電源は信号の代わり。シミュレーション内容によっていろいろいじる。 Output下にあるAC電源みたいのは、インピーダンス計測用のもので、図では0Vで何もしていない。

次に設計手順をまとめてみる。


R1とR2の決定

トランジスタのベースにかかる電圧を2Vとしたいので、R1:R2の分圧を考えればよい。6Vでもギリギリ動かしたいので3:1~4:1ぐらいでよい。 またここを流れる電流はトランジスタベースに流れる電流0.005mAの10倍以上としたいので、 R1=75k、R2=22kとし、約0.1mA流すようにした。シミュレーションしてみると下記のようになり、緑はトランジスタのベースにかかる電圧で2V。水色はR2を流れる電流で0.1mAとなり、計算どおりの値となっている。



RCとREの決定

これらの比がそのまま増幅率になる。今回は欲張らずに5倍としたので、5:1の比にすればいい。 そしてエミッタ電流を、えいやで1mAということにして、それを元に具体的な抵抗の値を決めていく。 まずREの電圧降下を1.3V程度にしたいので、1.3V/0.001A = 1300Ωとなる。 中途半端なので1.5kΩとした。RCは利得から、その5倍の7.5kΩとした。 上記値でシミュレーションすると以下のようになった。緑は電流で0.9mA。エミッタ電圧は1.33Vぐらい。コレクタ電圧は2.35Vというところ。いずれも大きくはズレていない(?)



入出力カップリングコンデンサの値

入力はR1、R2とセットでハイパスフィルターを作ってしまっているため、計算して問題のないカットオフを設定する。式は以下のようになる。fcはカットオフ周波数でHz。Rはこの回路の場合、R1、R2を並列でつないだときの値に相当する。
fc = 1/(2pi * C * R)
C=10uFとした、Rをシミュレーション計測値16.4kΩとした場合、カットオフ周波数は上記式から0.97Hzとなる。音声を扱う分には十分すぎる大きさ。

一方出力部のカップリングコンデンサは、接続する機器の影響もあり、回路図だけからは判断ができない。接続先のマイク入力のインピーダンスが2.2kΩなので、それで計算すると、10uFの場合は、カットオフ周波数は7.2Hzとなる。入力に対して一桁ほど違うが、10Hz以下なら全く問題ない範囲。


増幅率のチェック

LTspiceのSimulatieメニューからEdit Simulation Cmdを選択して下記ウィンドウを出すして、以下のように入力する。 ここでは、1kHzのサイン波ということもり、Stop Timeは0.01secにした。

また入力用電源を右クリックし、入力用信号をサイン波にして特定の周波数1kHzにする。電圧は0.001V。

RUNしてinputとoutputをクリックすると以下のグラフが表示される。 下記の緑色が入力波形で1kHzで±1mV出てきる。青は出力波形で位相が反転し約5倍の±5mVになっているのがわかる。電源の電圧を6Vぐらいまで下げても、ほぼ同じ増幅率になっている。6V以下では増幅率も徐々に下がってしまう。また入力レベルはアコギピックアップに合わせて1mVにしているが、100mVぐらいまでは問題なく増幅できる。相当出力の高いギターやベースでもOKということ。



入力インピーダンスのチェック

シミュレーションするためには入力電源の設定を変える必要がある。下記のようにサイン波ではなくACの設定を使う。0.001Vとした。

またSimulationはAC Analysisにする。設定は以下のようにした。

RUNして、プロットペイン上で右クリックしadd traceを選択。下記のように式を入力し、入力インピーダンスを求める。

結果は以下の通りで、実線が入力インピーダンスとなる。10Hzから20kHzぐらいまでは16.4kΩぐらいとなった。手計算ではR1の75kとR2の22kの並列となり17kΩというところだが、コンデンサーの影響などいろいろあるので、まぁこんなところだろう。


出力インピーダンスのチェック

入力インピーダンスと同じようにするが、このとき入力信号用電源は0Vとして、出力用電源を0.1V等にする。

同じように RUNして、プロットペイン上で右クリックしadd traceを選択。V(0utput)/ I(I1)のように式を入力し、出力インピーダンスを求める。

結果は以下のようになった。20Hz以上はRCと同じ値の7.5kΩなので、手計算と同じ。




アウトプットの周波数特性

AC解析でシミュレーション。 10Hz以下はカップリングコンデンサの影響を受けているが他は、ほぼフラット。破線は位相で可聴域は180度反転している。



ノイズ特性

イマイチ解析法方がわからなかった。 Transientを使って、信号はACとして、プロットペイン上でFFTを選択して、outputを測ってみたのが下図。ノイズっぽい特性なので、これかな?と思っているが、そのうちちゃんと調べてみるか・・・もし、これが雑音電圧特性なら、かなり優秀な値が出ているね。



まとめ:エミッタ接地増幅回路だけではダイレクトボックスとして使えない

このエミッタ接地回路だけではダイレクトボックスとして使えない。その理由は入出力インピーダンスにある。ギターはハイインピーダンスで200~500kΩとかなり大きい。それを受けるためには、同等以上の入力インピーダンスが必要となる。上記回路では16.4kΩで低すぎる。このままでは音がこもりギターの高音域がすべてスポイルされるだろう。

また出力インピーダンスは低ければ低いほど、渡す機器への負担を減らすことが出来、ケーブルからのノイズに対しても有利になる。しかし上記回路では出力インピーダンスが7.5kΩとなるので、受け側のマイク入力2kΩよりも高く、やはりマッチングが出来ていない。音質も犠牲になる。それにバランス出力していないので現実的ではない。

ということで、トランジスタ1石のエミッタ接地だけではダイレクトボックスは実現できないことを確認。わかりきっていることだが、LTspiceの使い方に慣れるのが目的なので、それなりに得るものはあった。

それにしてもLTspiceは強力だわ。目的にあわせてギリギリまで追い込めることは明らか。ある程度追い込んでから、実際に組んで確認すればよいので、お馬鹿な失敗は避けられるね。使い方がイマイチわからないのが辛いところだけど。今後必要に応じて勉強していけばいい。
今回は実装するレベルではないので、シミュレーションで終了。

次回は入力インピーダンスを高める方法を考えてみる。

この続きは、ダイレクトボックス自作(アクティブ)記事で具体的に作ってみた。