VSTi Surge ファーストインプレッション

はじめに

先日VSTシンセのu-he Tyrellをいじってみたのだが、10年選手のマイPCには負荷が高すぎた。数トラックTyrellに使ってしまうと、CPUが悲鳴を上げ始めて作業できず・・・ぬめっとした深みのある音は、気に入っていたのに残念。ということでCPU負荷低めのソフトシンセを探すことに。 基本的にバーチャルアナログ系を探すが、使うソフトシンセは最小限にしたいので、やや守備範囲が広いものがいい。

KVRを見ると候補は山のようにあるのだが、全部試す時間もない。 ということで去年から気になっていた、dexedと同じプロジェクトのSurgeを試してみることにした。 個人的には高機能過ぎるが、CPU負荷は低くて安定動作。 音は、やや淡白な印象だが、全体の完成度が高いという印象。 別の言い方をするとプログラミングスキルがひじょうに高い。 音楽用だけでなく、音響実験に使えそうなところも気に入った。


Surge
ver 1.7.1.527cfb 2020-08-02
https://surge-synth-team.org/

Surgeのファーストインプレッション

Surgeは、DAW Bitwig開発者でもあるClaes Johanson氏が開発。 元々シェアウェアだったものが、2018年にオープンソース化して、現在はsurge synth teamで開発が継続されている。開発は活発に行われていて更新頻度も高く、長く付き合えそうな予感。良いプラグインでも開発が滞って使えなくなってしまうケースもよくあるので、これは重要なこと。

公式サイトでは、LinnDrumやAKAIのサンプラーなどを開発した伝説的人物のRoger Linnによるデモもある。Linnstrumentとsurgeのコラボという感じ。

そもそもSurgeを知ったきっかけは、VST開発の参考として何かオープンなものを探していて、Surgeのソースコードを覗いてみたのがきっかけ。 コードは、とても洗練されていて感心してしまった。GUIもプログラム的に書かれていて拡大縮小が自在。レイアウトもフォントなどの細かなところもきれいにまとまっている。VSTシンセの作り方が気に入ったのだ。 2021年には開発環境をJuceに移行するようだが、個人的にはちょっと残念なところ。複数プラットフォーム向けに効率よく開発するには仕方ないことだが。

現在、WindowsはVST3(64bit、32bit)とVST2(64bit、32bit)、MacはAUとVST3、LinuxはVST3(64bit)に対応。

Surgeは、ハイブリッドシンセで、減算式アナログモデリング、FM、ウェーブテーブル(読込可)、ヴォコーダー、13種のエフェクト、ステップシーケンスなど多くの機能があり、ルーティングの自由度も高い。 Surgeだけで1曲作ってもいいぐらい幅広い音作りができる。 その代わり、様々な合成方法を熟知する必要がある。エフェクトもしっかりしているので、積極的に使いたいところ。負荷が低く性能的にも申し分ないと思う。

また、マイクロチューニングも可能なので純正率とかもできる。MPEもサポートしていたり、レイヤー、スプリットもできるなどリアルタイム演奏も考えられていて何かと新しい仕様。今後こういうプラグインシンセがライブでもハードウェアのように利用されるようになると思われる。Surgeはそういうことも視野に入れて開発しているっぽい。

高機能ゆえに学習コストがすごく高くなる。でも少しいじってみたら、インターフェイスが素直でよく整理されているため、マニュアルを見なくても大まかな操作はすぐにできるようになった。 複雑なルーティングも操作が分かってしまえば使いやすい。これなら何とかなるかもしれない。パラメータの名称も素直で変に略されておらず、一貫性もあって好印象。 多少GUIで改善した方がよいところもあるが、80点ぐらいの出来になっているので不満はない。

よく出来ているが、やはり機能が多く組み合わせも複雑なので、全体をある程度理解するだけでも時間がかかりそうだ。 構造的には減算式のアナログシンセが基本でVCF発振もできるようになっている。そこにFMやら、ウェーブテーブルの概念が入ってくる感じ。この手のシンセのFMは、おまけが多いのだが、Surgeの場合は、もう少し頑張っていて、FMらしい音作りも可能になっている。ただ音域ごとのベロシティ調整が細かく出来ないので、dexedほどの自由度はない。

CPU負荷は、その機能からしたら低めで、10トラックぐらいに使っても問題なさそうだ。ユニゾンボイスを増やしたり、かなり複雑な設定をしたり、エフェクトをガンガン使ってみても負荷は、そう高くならない。dexedと比較しても、やっていることからしたらかなり軽い。場合によっては単機能エフェクトよりも軽い。これはPCにやさしいソフトシンセだ。


音を作ってみた

プリセットはあまり気に入らなかったので、自分で作ってみた。 まずアナログシンセらしいウォームパッドを作ってみた。個人的には、これだけ柔らかい音が出れば十分。u-heと比較すると淡白な印象があるけど、アンサンブルになってしまえば、それほど気にならない。


LFOによるレゾナンスが効いたベース。輪郭のある、ぶっとい音が出せる。


ピアノ系はdexedに、かないそうもないが、Keytrackを使いこなせば、そこそこ使える音は作れるかもしれない。サイン波をFM Routingだけで作ってみたのだが、ルーティングの自由度に驚いた。頑張ればdexedの代わりも務まるかもしれない。


効果音的なことはdexedよりも得意。ホワイトノイズでもいけるが、下はS&Hノイズを使ってみた雨の音。やや土砂降り状態。


続いて定番の波。かなり豪快な波。


ヴォコーダーの実験。やり方がよくわからず、Surgeをエフェクトとしてトラックにインサートしたらできた。これでTALのヴォコーダーも不要になった。


その気になれば、ほしい音は何でも作れそうな予感。ただし、それなりの学習が必要。 使うソフトシンセの数を最小限にしたい場合、用途が広く大抵のことはできるSurgeは強い味方になる。


その後u-heの音がどうしても恋しくて、zebra2へ切り替えてしまった。


VST