Cakewalk by Bandlab PC76 U-Type(FETコンプ)

Cakewalkのエフェクトを少しずつチェックしてみる。 まずは、使用頻度が高めのコンプレッサーから。 Cakewalkにはプロチャンネルに2個、fxに2個の合計4個のコンプレッサーが標準で搭載されている。 今回はプロチャンネルにあるPC76 U-Typeというコンプレッサーを試してみた。


PC76 U-TypeはUNIVERSAL AUDIO Urei 1176のモデリング

Urei 1176という実機が存在していて、それをモデリングしたプラグイン。 実機は、かなり癖があるのだが、1976年発売で、今でも売られ続けている超ロングセラーのスタジオの定番コンプ。お値段は285,000円。

このコンプがもてはやされているのは、 FETコンプなので、アタックタイムを短く設定できるなどの、機能的な面もあるとは思うが、 それ以上に、通しただけでアナログならではの色付けがされるところが最大の魅力だろう。 デジタルのクリアですっきりしたサウンドとは真逆の部分の需要ということね。 制御方式がFETによるフィードバック方式なので、粘りのある音になる。 PC76も充分実機のニュアンスが感じられる。
原音をなるべく変化させず、クリアな音を求める場合は、Cakewalkの場合、fxSonitus compressor、fxSonitus Multiband、もしくはPC4K S-Typeのコンプを使ったほうがよいかと思う。

Ratioとスレッショルドの関係


圧縮比であるRatioは4つのボタンで選択。4、8、12、20があり、実機だとさらに全部のボタンを押したりすることができる。PC76では無限大ボタンがそれに相当する。

このコンプの独特なところはスレッショルドの調整ノブがないということ。内部的にはスレッショルド固定で、Inputレベルを調整して、スレッショルドを決める仕様となっている。開発当初は使いやすいと思ったのだろうけど、入力と出力をセットで調整する必要があるので、ちょっと面倒。

当然PC76も、これを継承している。スレッショルドが分からないというのは、使う上で結構厳しいので、実際どういう動きをしているのかチェックしてみた。

音量が最小から最大にリニアに変化する以下のような波形を作り、これにコンプを適用すると、スレッショルドが分かる。入出力共に0dBにしてある。 見方は、コンプ適用後の波形で段々音量が上がっていく途中で折れるポイントがある。そこがスレッショルド。 Ratioごとにスレッショルドが異なるように思えたので、各Ratioごとに波形のスクリーンショットを撮ってみた。


Ratio4

Ratio8

Ratio12

上図Ratioが4、8、12の場合は、大体-8~-9dBがスレッショルドとして設定されるが、微妙に違う。


Ratio20

他と大きく違って-5.5dBぐらい。


無限大

無限大は実機の全部押しをシミュレートしているらしい。ほぼ飛び道具扱い。入力信号に対して-20dBぐらいがスレッショルドなのだが、注意点としては、後処理で全体が10dB増幅される。そのため出力を見ると-10dBに見える。そして音はとてもノイジーになる。

Ratioによってスレッショルドラインが変化するので挙動がつかみにくいわけだ。使い勝手は悪いが、実機をシミュレートした結果、こうなったのだろう。アナログは、こんなもんだということで、納得するしかない。

次にA0~A8のサイン波を鳴らして、周波数ごとの圧縮を様子見する。アナログ実機はこういうところに差が出やすいので。結果はRatio4のときに以下のような感じで、低域は圧縮率高めで、高域は少し緩くかかった。実機はもっと差が激しいと思うのだが、地味な感じというか、デジタルコンプに近い挙動だ。

使うときは、基本的に音で判断することになるが、波形レベルからある程度予測してインプットレベルを調整したり、メーターを見て確認するとより確実。

VUメーター


GR(Gain Reduction)を表示するので、スレッショルドにかからない信号の場合は針は振れず0のまま。スレッショルド以上になると針が動く。針がガンガン動くときは、過激な使い方で、あまり動かないときは、地味な使い方という感じ。VUメーターなのでピークレベルではなく平均値が表示される。


Input(-20~40dB)

上記のスレッショルドを決めるパラメータなので最も重要。


Attack(0~1.2ms)

実機はFFTコンプなので、アナログ機器としてはアタックを高速に設定できる。 PC76はデジタルなので、0.0msecも可能になっているようだ。 長くても1.2msecってすごく短い(笑)。833Hzの1周期分に相当する短さ。 ちなみに実機はAttack、Release共にノブの回転方向が感覚と逆で、ぎょっとする仕様。 PC76は普通に時計回りで遅くなる仕様になっている。

では最短の0msecが本当かどうかチェックしてみる。ハイハットのような生音ならアタックもそれっぽく圧縮されたが、1サンプルだけのインパルスレスポンスのようなアタックは、さすがに無理だった。 アナログ機器であれば、当然の結果なので、問題ない。ちなみにハードの実機は最速が0.02msecとなっている。これはサンプリング周波数が48000Hzの場合、約1サンプルに相当する。改めてパラメータの数値は鵜呑みにしてはいけない。

アタックタイムを最速にして実験してみる。 cakewalkは波形をサンプル単位でチェックできないので、エクスポートしてAudacityで表示してみた。赤色波形が適用前で、青が適用後。サンプリング周波数は48000Hzなので、やはり2個目から徐々に効いている。実機と同じ0.02msecと考えていいと思う。アナログ機器のモデリングなので、アタック部は特徴的になる。デジタルみたいに理論通りではないところが面白いところ。


1176系は速いアタックを利用したトランジェントの強調が売り。ドラムなどには有効だろう。パッツンパッツンという感じのドラムサウンドは1176を使う場合が多いと思う。


Release(50~1200ms)

設定値よりも、だいぶ長めになるようだ。


Output(-40~20dB)

出力レベルではあるが、このコンプの仕様上、Inputに合わせて調整する必要がある。 実機と違って出力レベルを変更してもRatioなどが変わったりはしない。


DryWet(0~100%)

基本的には100%で使うが、ドライとのミックスでも利用できる。


サウンド

設定にもよるけど、色付けしてしまうコンプなので、ミックスにかけるよりも、各トラックごとに使うというのがセオリー。 ボーカルやベースなどには合うと思う。高速なアタックタイムを生かして、打楽器の頭をつぶしたり、トランジェントを強調するときも有効だ。 ミックス全体にかける場合は、VCAコンプのPC4K S-Typeや、fxコンプなどナチュラルなタイプがベター。

とりあえずベースで試してみた。ベースは自作ダイレクトボックスからオーディオインターフェイスのUH-7000を通しCakewalkで録音。ラインなので、どうしてもベースの太ささみたいなものがスポイルされやすい。このコンプを強めに使うと、そういう部分を多少補完できる。 下図はコンプ適用前と後の波形。明らかに音量が整えられている。それによって安定感が増している。



まとめ

古典的な定番コンプレッサーを疑似体験しておくという意味でも楽しめるPC76。