CLAP TAL-VOCODER

vocoder(ヴォコーダー)の歴史と基本原理

現在では電子楽器扱いされているが、元々は通信用音声圧縮技術として開発された。 人の声をナチュラルに再生するには周波数帯域としては200Hz~10kHzぐらいほしいが、当時は低い周波数しか送信出来ずヴォコーダーを開発した経緯がある。1939年のニューヨーク万国博覧会で「The Voder」が一般公開された。今から80年以上前だ。 YouTubeで音声が聞けるが、イントネーションは機械的に付ける必要があるため、必然的に音階を付ける機能がある。 そのこともあってロボットボイスで歌っているパフォーマンスもある。 これを聴いたら誰だって音楽に使いたくなるわなぁ。

構造は以下のようになっている。

実際音楽で利用されるようになったのは30年以上後のことで、楽器用に開発された1970年代後半からとなる。ロボットボイスとして未来的な雰囲気が時代にマッチし、80年代にかけて盛んに使われた。

基本原理としては、キャリアという楽器の音程と音色に対して、モジュレータという声のフィルターをかけることで、ロボットボイスを実現している。人の発声は倍音構成が特徴となっているため。キャリアの音に、その倍音構成を採用すれば、人の声にように聞こえるということである。 手順は割とシンプルで、キャリア、モジュレータともに、周波数帯域ごとに数バンドに分けて、モジュレータの各帯域のレベルを、キャリアの各帯域のレベルに適用する。その音を再び合成して出力すればロボットボイスの出来上がりである。このことからキャリアの音色は倍音豊かである必要がある。またバンド数が多ければ、より言葉が聞き取りやすくなる。

230506更新

TAL-VOCODER ver3.0.1 (CLAP対応)

https://tal-software.com/products/tal-vocoder
フリーVSTで使えそうなボコーダーを探してみたら割と定番ぽいのがこれ。ただCakewalkで試そうとしたら、マニュアルも親切とは言えず、ネット上にも説明が、ほとんどない状態。そんなことで設定に手間取ったので手順を書いておくことにする。

2023夏にDAWをReaperの乗り換えたので、VST3ではなくCLAPで利用することにした。今後はCLAPに期待したい。

TAL-VOCODERの特徴はキャリア音源が内蔵されていること。また別の任意の音源をキャリアとして利用することもできる。11バンドでビンテージ風のサウンドが得られる。操作つまみは少な目なので、あまり迷うことはない。

パネルの説明


INPUT MODE
Ver3.0からインプットモードが4つになって使いやすくなった。


VOCODER部



  • 11バンドのレベル調整。
  • MOD IN:Modulatorの入力レベル。
  • COMPAND:音質調整。
  • CHORUS:ONにするとコーラスエフェクトによりステレオの広がりのある音が出力される。
  • CAR IN:CARRIERの入力レベル。
  • ESS INT:音の輪郭を際立たせるエンハンサーらしい。キャリア信号の倍音の具合に応じて調整するっぽい。聞き取りやすい音にするための調整ノブ。
  • RELEASE:リリースタイムの調整。
  • HARMONIC:右に回すと高域成分が増えてきらびやかになる。
  • VOLUME:出力レベル。
CARRIERは内部音源を使うときに有効な部分で、外部音源を使うときは音は変化しない。基本的にはアナログシンセと同じで、4つの波形をミックスして音色を作り、ピッチなどを調整して使用する。

  • PULSE:矩形波のレベル調整を行う。FTUNE(fineと思われる)とTUNEでピッチ調整可能
    • TUNE:ピッチを調整
    • FINE:微調整
  • SAW:ノコギリ波のレベル調整を行う。FTUNEとTUNEでピッチ調整可能
    • TUNE:ピッチを調整
    • FINE:微調整
  • SUB:PULSEのオクターブ下のレベル調整。ピッチも連動している。
  • NOISE:ホワイトノイズ系のレベル調整。
  • PANIC:音が鳴りっぱなしになった場合押すと音が止まる。
  • POLY:ONでは和音が扱える。OFFにするとモノフォニックとなり、POLTAが有効になる。POLTAノブで音程が変化するスピードを調整できる。
  • SYNC:PULSEとSAWの二つのオシレータを強制的に同期させる。
  • PORTA:ポルタメントの速度を調整。
  • TRANSPOSE:16、8、4、2とオクターブ調整が可能。
  • TUNE:全体のピッチを調整。
下は内部音源の音。PLUSE, SAW, SUB, NOISE, そして組み合わせの順になっている。モジュレータに、ホワイトノイズを使ってみたので、ざらつきはあるものの音源の音が出ていると思う。組み合わせはPLUSEとSAWを強めにしている。



Cakewalkでの使い方

インプットモードが変わるとセッティングも変わるため、Cakewalkで使う場合の例。 とりあえず、モジュレータは声、キャリアはシンセなどの楽器に分けていますが、原理的には何でも行けます。

MIDI C / Audio M:キャリア音源に内蔵音源を使う場合1


CakewalkではAudio TrackとMIDI Trackの2トラックが必要。下記の設定を行えばリアルタイムでヴォコーダーサウンドを楽しめる。

モジュレータ声トラックにTAL-VOCODERを挿入する。
キャリアMIDIトラックはOUTをTAL-VOCODERにする。

MIDI Trackは外部MIDIキーボードなどを扱うためのもので、音源は使わない。あくまでも音程の指定用トラックとなる。重要なのは、このトラックの出力をTAL-VOCODERにすること。

ここで重要なのはTAL-VOCODERのVSTプリセットオプションで「MIDI入力オン」を選択すること。

内蔵音源の自由度はそこそこ高く、これだけで充分のような気がする。何か特別な実験をしたいときに限り、外部音源を使うことになりそうだ。

下がそのサンプル。ボイスは「AIきりたん」で作ってみた。音程は一定でずっとファで語っている状態。

上記を使ったヴォコーダーサウンド。音程と和音はキャリアに従う例。始めは単音一定音程だが、途中からコードサウンドになって、メロディを歌っている。



MIDI C / SC M:キャリア音源に内蔵音源を使う場合2


このモードは3つのトラックを使用する。ボコーダーを挿すトラックには何もデータがないので、このモードを使いたい場合もあるかもしれない。

オーディオトラックのエフェクトにTAL-VOCODERを挿す。
モジュレータ声トラックはサイドチェインで、TAL-VOCODERに入れる。
キャリアMIDIトラックからTAL-VOCODERに入れ「MIDI入力 オン」をする。



SC C / Audio M:キャリア音源に外部音源を使う場合


TAL-VOCODER内蔵音源は使わず、ほかのソフトシンセなどの音をキャリア音源として使うモード。 CARRIERと書かれた部分はいじっても変化はない。 このセッティングで使うメリットは、他シンセ等でキャリアサウンドを自由に作れること。

モジュレータ声トラックにTAL-VOCODERを挿入。
キャリアは、シンセトラック(MIDI)をサイトチェインでTAL-VOCODERに入れる。

本来のサイドチェインはコンソールのSendsで送るのが流儀。つまりトラックの音は、そのまま使いつつ、その音声信号を別トラックで利用する場合に使う。 ボコーダーで使う場合はシンセの音は素で出さないと思うので、上記のようにアウトでTAL-Vocoderに送る方が何かと使いやすいかもしれない。

以上の設定でヴォコーダーとして利用可能になる。下サンプルは外部シンセで作ったヴォコーダーサウンド。




Audio C / SC M:キャリア音源にオーディオファイルを使う場合


このモードはオーディオデータをキャリアに使いたい場合に使用する。

キャリア音源にするオーディオトラックにTAL-VOCODERを挿入。
モジュレータ声トラックをサイトチェインでTAL-VOCODERに入れる。



ver3.0になって

以前のバージョンに比べて使いやすくなったのだが、ボタンの反応が悪い時があったり、なぜかサイドチェインを受け取らないときもあったりして、やや不安定な印象。そういうときは、TAL-VOCODERをON/OFFすると、復活したりする。


ボーコーダーを使って1曲をカバーしてみた。



VST