VSTi u-he ZEBRA2 FMO




個人的にFM音源は大好物で、ヤマハDX7のクローンのdexedを使っていた。 特にdexedのよいところは、鍵盤の音域に応じてゲインを設定できるところ。 各オペレータごとに操作できるため、ピアノのような広い音域を持つ音色には有利となるのだ。 それに折り返しノイズ対策にも使える。

ZebraではKEY SCALE GAINという同じ考え方のパラメータがあり、dexedと同等以上のことができるようになっている。 高機能シンセではFM変調できるものもあるが、おまけ程度の機能しか提供されていないことが多い。 その点Zebraは、FM好きでも満足できるレベルになっている貴重な存在。 そんなこともあって、もうdexedは使っていない。たまに比較のために引っ張り出す程度になっている。

サンプルは、Zebraのプリセットにある「DX7 e-piano」の音で、エフェクトはリバーブだけにしている。充分dexedの代わりになる。



オペレータの音程

Zebraは、オペレータからの出力音程が、弾いた鍵盤に対して±48半音(±4オクターブ)の範囲となっている。マイナス側にもプラス側と同じように広く設定されているところがユニークである。

一方、dexedは基本的に弾いた鍵盤に対しての倍音という考え方でオペレータの音程が決定される。最大で31倍音まで扱えて、音程的には4オクターブと長7度+で、Zebraよりも高い倍音を扱える。しかし下には0.5(1オクターブ下)しかない。 個人的には、この倍音的な考え方にはちょっと疑問を持っていて、加算式なら迷わず倍音だろうけど、FM変調なのだから、必ずしも倍音的な考え方は合理的とは思えないのだ。まぁ計算コストから倍音になったのだと思うけど。

またdexedは任意の周波数(1~9772.37Hz)で固定することができるが、 ZEBRAで固定する場合は標準設定でE7(2637Hz)が最高音で、やや物足りなく、下はE0(約21Hz)となっている。 扱える周波数を広げたい場合は、GLOBAL設定を変えれば2オクターブ上下させることができる。 特に低域を下げると最低5Hzとなり、ほとんどLFOとなる。 さらに広げたい場合はMMIXやENVなどを使う手があるが、簡単にナイキスト周波数を突破してしまうので、慎重に扱う必要がある。

またOSCをFM音源の一番上のモジュレータとして使うのもありで、より広い周波数で扱いやすい。 SpectroBlendを使えば最高128倍音まで扱える。 また固定周波数も扱えるのでDX7と同じように扱える。

またZebraの圧倒的に良い点としてはパラメータの滑らかな変化が可能ということ。 例えばモジュレーション等によって動的に音色変化が行え、今までのFM音源とは明らかに違うサウンドが生み出せる。 ヤマハのFM音源は、階段的にパラメータが変化するので、突然音色が変化してしまう使いにくさがあった。そういうこともあって、動的にパラメータをいじることは普通しない。 下はモジュレータ音程を4オクターブ下から基準音程まで変化させてみたところ。


しかしながら、昔のFM音源の音を再現しようとすると苦労する。やはりDX7やOPMと挙動が違うので、似せるには微調整が必要になってくる。またzebraでは、どういうわけか音楽的に使いやすい音になりやすい。元祖FM音源のようなトゲトゲした硬質な音は出にくく、丸くなりやすい。音楽的には使いやすいのだけど、FMのトゲがほしいときは、それなりの調整が必要。できないことはない。

利用できるオペレータの数は4個

dexedは6個のオペレータが使えるが、Zebraでは4個まで。ただOSCや、NOISEジェネレーターも兼用できるので物足りなさは全くない。

またdexedがサイン波しか出力しないのに対して、Zebraは8種類の波形が選択できる。 この8種類はどれも独特な波形で、よくある単純な矩形波やノコギリ波が用意されているわけではない。いずれもサイン波の変形でヒステリシス的に歪んだような波形になっている。 どうしてこのような波形にしたのかは不明だが、なかなかこだわりが感じられるセレクトだ。 各オペレータは自己フィードバックも可能で、50を超えるとノイズ発生器になる。

  • pure sine
  • quadric sine
  • dual AM sine
  • half sine
  • sine shift
  • quadric shift
  • AM shift
  • dual positive

使い方としては、サイン波のバリエーションとして扱うとよいと思う。つまり、サイン波である程度作ってしまって、その上で他の波形に切り替えて、トーンの変化を試すという感じ。これがサイン波の変形ではなく、ノコギリ波などであったら、想定外の音になるが、このサイン波バリエーションでは、ある程度の範囲に収まってくれる。多分そういうことを意図してセレクトしたのだと思われる。


アルゴリズム = オペレータの接続方法

メイングリッドを使って配置するために、dexedのようなアルゴリズムは用意されていない。4個で波形もサイン波だけではないので、それほど複雑な接続はしないし、その必要もあまりない。ただ、2つのモジュレータから1つのキャリアに接続するような場合、Mixモジュールを使うなど、あまりスマートではない方法となる。

まずは同じ4オペレータのYamaha YM2151と同じようなアルゴリズムを作ってみる。フィードバックは自在なので、接続方法だけを示す。MIXを使って無理やり接続しているところは、あまり美しくない。

最もシンプルな直列型。


2レーン目はそのまま出力されてしまうので、ミュートにしている。


上記と似たようなアルゴリズム。


シンプルな2つの直列を2セット用意したアルゴリズム。


これは3つのモジュレータが1つのキャリアに接続している図なのだが、なんともグロテスクになってしまう。


3セットで、1セットだけ直列になったシンプルなアルゴリズム。


もっともFMらしくない並列アルゴリズム。もはや加算式。


下のようなアルゴリズムも考えられる。2つのキャリアは、それぞれ共通の2つのモジュレータを持っていて、モジュレータは単独でも出力するという内容。これ以外にもOSCなどを入れることで、いくらでも複雑になっていく。



KEY SCALE GAIN / VELOCITY GAIN

オペレータごとに鍵盤の音域に応じたゲインを調整できる。 これによって実際のアコースティック楽器のような設計が可能になる。 音色づくりの際は、当然ながらVELOCITY GAINとENVの設定も重要。 柔軟なENVモジュールはベロシティの感度やKEY SCALEを各パラメータに割り当てることができるので、かなり突っ込んだ設定が可能となっている。 プリセットの「DX7 e-piano」は、KEY SCALE GAINはフラットのままで、ENVのKEY SCALEを少し触っているぐらいで実現している。

KEY SCALE GAINは国際式ではなく、ヤマハ式のようだ。440HzはA3ということになっている。 下図はカーブを描いて一定ベロシティで弾いた時のオーディオ出力だが、dexedと違って、半音ごとにゲインが変化しているのが分かる。素晴らしい!



TYPE

TYPEは5つ選べるが、注意点としてFM self、FM self2にすると上にFMOやOSCがあっても、inputは無効化され、信号はスルーされてしまうということ。

FM self (+) (入力無効)
サイン波だとノコギリ波ぽい波形が作れる。dexedのフィードバックとは違うね。左右対称波形が斜めになっていくイメージ。

下アニメはFMレベルを徐々に上げていった場合。最後はノイズになる。


FM self2 (+) (入力無効)
上との違いは入力信号が出力の2乗ということらしい。波形が傾くだけでなく、反りが入るというイメージ。FMを25~30ぐらいにするとフカヒレトーンが実現できる。これは便利そう。

下アニメはFMレベルを徐々に上げていった場合。最後は同じようにノイズになる。


FM by Input
これは通常のFMオペレータ。FMOの上にOSCなどをモジュレータとして配置して使う。

RM input
リングモジュレーションされる。もはやFM音源ではない。 リングモジュレーションは入力された2つの信号の掛け算であるが、結果的に2つの信号を足したものと、引いたものが出力される。

下はOSCでEの659Hzを出して、RMはAの440Hzに設定。FMを最大にすると下記スペクトルのようにリングモジュレータの音になる。ただOSCの音もそのまま出てくる。FMOの音はない。 またOSCとFMOの周波数を入れ替えると挙動が変化する。



Filtered FM
入力レベルを固定し、LPFが入る。入力レベルは送信モジュールのアウトプットで調整する必要がある。


まとめ

ZebraのFM音源を使いこなそうとすると、それなりの学習が必要。 dexedのように1つのオペレータの設定項目がまとまっているわけではないので、あちこちのモジュールにアクセスして設定する必要があるのが難点。 ただ接続方法の自由度も高く、FMでやりたいことは大抵実現できるはず。 下サンプルはFM音源らしいベースの例。