ダイナミックマイク SHURE (シュアー) SM58

定価19110円(税込)。実売7480円(サウンドハウス)
1966年発売。仕様変更されながらも2011年時点で45年間売られ続けているロングセラーマイク。

ダイナミックマイクの構造などに関してはSM57のページに書いたので、ここではSM58独自の部分やSM57との違いを書こうと思う。


定番マイク

SM58はボーカル用として定番マイクだが、あくまでもPA用という断りがある。音質を含めてPAとして使い勝手がよいのがその理由。その特徴は以下のようなところ。

他のサウンドに埋もれくい前に出る音(中域の強調)
ハウリングに強い
頑丈
使いやすい単一指向性
近接効果対策がされている
ポップノイズ対策されている
ハンドリングノイズに強い
丸いグリルを持つ独特な形状 マイク = この形というぐらい認知されている

こんなところだろうか。スタジオでの本格的なレコーディングではより高音質のコンデンサーマイクが主流となる。

主な仕様

型 ダイナミック型(ムービングコイル方式)
周波数特性 50 ~ 15000Hz
指向特性 カーディオイド
出力インピーダンス EIA定格150Ω(実効値300Ω)
感度(1kHz 開回路電圧) -54.5dBV/Pa(1.88mV/Pa) 1Pa = 94dB SPL
極性 1番ピンGND 2番ピンHOT 3番ピンCOLD
コネクター プロオーディオ用3ピン(XLR)、オス
ケース ダークグレーエナメル加工ダイカスト メタルボディ
艶消しシルバー加工スチールメッシュ丸型グリル
サイズ 長さ162mm グリル最大径51mm 尾径23mm
重量 298g 
付属品:ホルダー、保管用バッグ、変換ネジ
生産国 メキシコ


よく見かけるマイクがSM58

イベントやライブなどで、よく見かける。1966年に発売されて40年以上第一線で使われ続けている定番マイクなので、イベント、ライブ、スタジオなど、どこにでもあるような存在になってしまった。マイクといえば、この形というぐらい世界中に浸透していて、下図のようにアイコン化されたSM58は、マイク端子などでよく見かける。おそらく最も売れたマイクではないのかな? さらに驚くことに販売数は年々伸びているらしい。

音の第一印象

音質は一言でウォーム。丸い音というか古っぽい音で、ハイファイさは皆無。良い意味でも悪い意味でもベールがかかったような印象がある。さらに近接効果を利用して中低域を強調すると、よりSM58らしい音となる。 逆に音の細かな表情の再現は厳しい。SM57と比較しても丸い音になっている。

学生のころPAのアルバイトをしていて、そのときSM58というものをちゃんと知ったのだが、使っているのを見て、こもるマイクだなと思った。今でもあまり印象は変わっていないのだが、使い方で大きく変貌したりもする。
イベントなどを見ていると、同じSM58でもモコモコしたり、すっきりしたりと、様々な音が出ている。一番の違いはマイクを使う人の発声とマイクの使い方。あとはPAの腕というところか。使い方のテクニックはとても重要。 簡単に最高の音にならないところが面白く、使いこなし甲斐があるマイクといえる。

SHUREのHPにデモ・サウンドがあり、男性、女性の独唱が聴ける。無加工なのでSM58独特のこもりも感じられる。
http://www.shure.co.jp/ja/products/microphones/sm58

周波数特性

中高域が盛り上がっていて、10kHz以上の高域も100Hz以下の低域もあまり出ないというもの。PAでのボーカルに必要な周波数帯域は100Hz~10kHzぐらいまでで、それ以外をばっさり切っている。これによって、ハウリングに強いとか、いろいろPAにとって使い勝手がよくなる。高域不足に関しては、アンサンブルの中では意外と気にならないもの。低域は、そもそもカットして使うぐらい不要なもの。ただ単一指向性なので、マイクと音源の距離や角度で、この周波数特性は大きく変わる。問題はこの周波数特性の距離が不明なこと。beta58Aは60cmを基準としているので、SM58も同じぐらいかもしれないが、やや遠いい印象。15~60cmの間ではあると思う。その後SHUREに問合せてみたら、下図は60cmでの特性と回答があった。

上記の周波数特性は公式ページから拝借したものだが、説明書にある周波数特性は、これとは違っていてSM57と全く同じ周波数特性になっている。手違いか、素の特性なのかは不明。

単一指向性

下の図を見る限りSM57とほとんど同じような特性を持っている。ギターの指板をチラ見しながら歌うには、まぁ適当な指向性だと思う。少しぐらいズレても何とか拾ってくれる。ほかに超単一指向性マイクというものもあるが、これはかなりシビアなので、ギターを気にしながら歌ったら、思い切り音に反映されてしまうだろう。


近接効果 ロールオフ

SM57と同じように、ロールオフされているので、マイクと音源の距離が近づくと低域が盛り上がってくる。あまり近づきすぎると低音にマスクされて、こもったような音になってしまうので、適切な距離を見つける必要がある。下図はSHURE beta58Aの近接効果の周波数特性で200Hzを中心に盛り上がる。SM58も同じような傾向だと思われるが、実際に使ってみるとSM58の場合、もう少し低い150Hzあたりのような気がする。ダイアフラムの共振周波数は100Hzに近いという話も公式であるので、結構低いところが盛り上がるのが現実。補正する場合は傾向を把握しておいた方がよさそう。説明書には6mmまで近づくと100Hz以下で6~10dBほど低音が上昇するとある。

これもSHUREに問合せてみたら、「SM58の特性図ではないのですが、BETE 58Aの仕様書で音源との距離を変えたときの周波数特性の変化がわかるようになっておりますので、こちらをご参照頂ければと存じます。SM58でもほぼ同じような傾向と考えていただいてよろしいかと思います。」という回答だった。

その後公式ビデオで以下のようなSM58の図を発見。これを見ると150Hz当たりが上昇している。

下は自分で計測してみたグラフ。Audacityで作成したチャープ音をスピーカーから鳴らして、使用頻度の高い30~150mmの距離でSM58で録音したもの。 スピーカーの特性(低域はほとんど出ない、2way、ドンシャリ等)が反映され、環境による妙なピークが目立つので、SM58の特性として見る事は出来ないが、公式スペックの雰囲気は出ている。 1kHz以上はなだらかに盛り上がって、7kHzで一度落ち込んで、その後10kHzにかけて盛り上がる。それ以上はガクンと下がる。1kHz以下は近接効果で盛り上がる。測定では150Hz当たりを中心に盛り上がった。

上記は周波数特性としては役に立たないが、距離によるバランスの違いは多少参考になると思う。 距離によって低域の盛り上がり方は大きく違う。70mmと150mmの差ですでに10dB近く違う。近づけば近づくほど広い範囲でもっこりとなる。高域のレベルの差は5dB程度で低域ほど極端な差は見られなかった。概ね実際の感じ方に近い結果となった。

マイク先端から口までの距離

プロのライブでは他の楽器の音(かぶり)を最小限にするため 0~5cmぐらいで使われている。張り上げるときは10~15cmぐらいだろうか。5cm以内では低域が5dB以上盛り上がるのでEQによる補正は必須。 EQ補正しない場合は最低10cmぐらいは離さないと音源に近いバランスにはならないが、生声に近い音質が理想とも言えない。大なり小なり作られた音質の方が好ましい場合が多い。

個人的にはマイクと口の距離は10~15cmぐらいが音質のバランスがよいと思っている。声量があって発声が素晴らしければ20cmもありという感じ。発声がしょぼければ近い方向へ移動して近接効果で中低音を持ち上げて充実させるというイメージ。ただ15cm以上になると、環境音や部屋の反響音が目立ってくる。防音、吸音がしっかりされたところであれば、かなりのパフォーマンスを発揮することは間違いないが、音響が全く考えられてない普通の家だったら10cm以内にして補正した方が、反射音からの影響を避けられてよいかもしれない。距離の決定は何かと難しい。

SM58で補正する場合は、カットはあまり問題ないが、ブーストは気をつけた方がいい。特に高音域10kHz前後をブーストしすぎると、音が荒れてくる。耳にやや痛い音というか、ザラザラした質感が出てきてしまう。多分ダイナミックマイクの解像度の粗さが原因だと思う。なるべくカットだけで使った方がよい結果が出ると思う。ブーストしたいときは3dB以内が無難。

SHURE SM58 の説明書に以下のような内容が書かれてある。 また説明書内に「マイクとの距離に正解はない」ともある。
0~15cm 低音域が強調された力強い音質 他との音源を最大限に分離
15~60cm 鼻の上の高さに配置 自然な音質 抑えた低音
20~60cm 横に少しずらす 自然な音質 抑えた低音 ヒスノイズを抑える
90~180cm 遠くから聞こえる細い音 環境雑音が聞こえる程度

PAをやっていたときに思ったのは、パワフルに歌う人にはOKで、小さめに歌う人にはちょっと辛いマイクかもしれない。女性の場合は低い成分が出ないので、小さめの声でも何とかなっていたと思う。 基本的にデカイ声で倍音豊かな声であれば、よい結果が出る。つまり発声がしっかりしていれば問題ない。SM58で問題が出る場合は、まず発声を改めるべきだと思う。ある意味SM58で発声の基礎を鍛えるという考えもあるかも。

感度

SM57が-56.0dBV/Pa (1.6mV)で、SM58が-54.5dBV/Pa(1.88mV)なのでSM58が高い。実際ギター録音でSM57、58をセットでステレオとして使うときに出力差を実感する。おそらくロールオフの周波数の違いでSM58の方が低音を拾いやすいので、その関係からだと思う。もしくは個体差か?

ウインドスクリーン

吹かれ、風よけのためにグリル内にウレタンスポンジのウインドスクリーンがある。これがSM58の大きな特徴なのだが、音響的にも大きく影響を及ぼしている。試しにウインドスクリーンを取り外すと、わずかに高域が伸びる気がするが、それ以上にすっきりした印象になる。でも58らしさがなくなってしまった感じがしなくもない。SM58の音色はこのウインドスクリーンが大きな影響を及ぼしているのは明らか。

ウインドスクリーンはウレタンなので、加水分解を起こす。条件が悪いと数年でボロボロ、ベトベトになってしまう。SHUREのHPを見るとウインドスクリーンだけでもオプションとして用意してある。6色あって選べるようだ。

ウインドスクリーンがあっても吹かれは完全に防げない。吹くとやっぱりボッとポップノイズが入ってしまう。結局吹かない練習をしないとだめ。プロの映像を見ても盛大に吹いちゃっているのをよく見る。やっぱり難しいのね。


グリル

線材を波状にしたものを組合わせた平織で作られている。ただ縦と横は同じではなく山のかたちが違うように見える。磁石にくっつくところから鉄製でメッキ処理。キレイな溶接は電気抵抗溶接かな。電気を通して接点を融点まで持っていくというもの。工作精度が高く、なかなか感心する出来栄え。落としたりすると凹んだりするが、ショックを吸収して内部のカプセルを保護する役目もある。その際にワイヤー先が飛び出さないように、工夫をしているようだ。顔に近づけて使うものなので安全対策を怠っていない。なかなか素晴らしい。グリルは交換部品として売っている。

RK143G ウィンドスクリーン グリルボール 実売850円。



グリルの錆び 150806

購入してから5年ぐらい経っているが、このグリル錆びやすかった。息がかかった状態で放置しておくと、その水分で錆びが進行してしまう。ぱっと見わからなかったが、よくよく見たら錆が浮いていた。理想的にはこのパーツはステンレスであって欲しい。

エアー式ショック・マウント・システム

ハンドリングノイズを軽減する仕組みだが、内部は未確認。公式ビデオの一部に以下のような画像があったので、ここから想像すると、カプセルを浮かせてセッティングしているようだ。詳細は分解しないと分からない。


SM57とSM58の違い

公式ページによると、SM58とSM57は同一のカートリッジを搭載していて、違いは主にグリル周り。その差が音質差、感度差になっている。SM58はウインドスクリーンとカプセルの間に空間があるのに対して、SM57はウレタンが詰まっていて、大きな空間がない。個人的にはこの差が大きいと思う。ちなみにSM58のグリルを取って、SM57のような10mm程度のウレタンスポンジをカプセル先端に取り付けて、録音比較するとSM57に酷似する。ただロールオフの周波数が違うと思われ、SM58は低音をよく拾う。SM57はすっきりした感じになる。

トランス

基本的にはSM57と同じ。ただ下の図はスイッチ付きのSM58Sも兼用。スイッチはHOTとCOLDをショートさせてOFFにするようだ。ONの状態ではスイッチなしSM58と全く同じ配線になるので音質的にも有利な設計だ。またスイッチのON/OFFでもノイズが乗りにくいと思われる。

トランスは軸部分に樹脂で固められている。

カートリッジ

ダイアフラムが収められているところがカートリッジ。SHUREアメリカではR59としてアクセサリーとして扱われている。このパーツだけ取り替えて使うということも出来るようだが、普通は丸ごと買い替えになると思う。

グリルを取るとカートリッジがむき出しになる。正面にはスポンジが貼られている。これを剥がすと7個の穴があるはずだ。その奥にダイアフラムがある。このスポンジは経年変化でボロボロベタベタになるはず。そうなったら取って使うことになると思うが、吹かれには弱くなり、音の傾向は明らかに変わると思う。

横から見ると、パンチングメタルの部分がある。ここから入った音と、正面から入った音の位相差を使って指向性を作り出す。


現在のSM58のロゴは印刷

古いモデルはシールだったようだ。SM57は現在でもシール。SM57は単一指向性の表示などがあるが、SM58は「SHURE」と「SM58」を繰り返し、しつこいぐらい印刷してある。古いシール仕様のSM58は仕様がここに書かれていた。印刷面はテーパーなしの円柱形状。テーパーがあると印刷が難しくなるので。


筐体

ケース材質は、SM57と違って公式仕様にはダイキャストメタルボディとある。この表現の方が正しいと思う。予想でしかないが、やっぱりSM57と同じ亜鉛合金製でしょう。

よく見ると、トランスが入っている軸部分はSM57とSM58は共通なのね。ここが共通だとマイクホルダーも共通にできるというわけだ。

塗装はエナメルで絶縁されている。エナメルとは、かなりあいまいな表現で塗装成分は不明。丈夫な塗装だが、よくボロボロに剥げているSM58を見かける。使われ方がすごいのね。

下はホルダーを付けたところ。ホルダーはかなり固めで、はじめはマイクのお尻しかホールドしない状態。使っているうちに段々と広がっていく。ホルダーそのものはがっちりしていて信頼性が高いと思う。ホルダーのネジ規格については混沌としているので、こちらのページに書いてみた。


パッケージ

現在のパッケージは黒っぽいイメージ。


その他

そのほかSM57との共通内容はこちらを見て。